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画家自ら収める額縁を選ぶのがベスト

絵画はその作品にふさわしい額縁に収められてこそその芸術性は高まるのでは考えられます。そう考えたとき現存する名画と呼ばれる中にそのミスマッチが目立つことが往々にあるのが世の常ですが、逆にまさにピッタリというような組み合わせに出会うと、さすがと一声かけてあげたくなるものです。例えば、ロンドンにあるナショナルギャラリー所蔵のAry Scheffer(アリー・シェフール)作の「Mrs Robert Hollond(ロバート・ホランド夫人の肖像)」。まず驚かされるのがなぜ画家自ら選んだと思われる組み合わせが長い間こわされることなく維持されていたかという事です。どうもいろいろな事情がいい方向に重なって現在に至ったと考えられていること。その一つが、描かれている人物にあまり興味が示されなかったことが幸いしたこと(ご本人には申し訳ないですが)。二つ目が使われていた額縁が高価なものと考えられた上に使用されていた技術が高度であるが故に敢えて他のものと交換する必要性が関係者の間で感じられなかったことが功を奏したとみられています。その額縁の特徴と言われるのが、四隅(スパンドレル部)に施された曲線の仕上げ。造り自体は当時行われていたコンポ(今で言うパテに似た油性合成物)での成形ではあるものの彫られている造作は浅めで単調ゆえに収められた肖像画との絶妙なマッチングを演出しており、さらに夫人が羽織っているマントとの色の取り合わせもピッタリというすべてが計算しつくされたとさえ思えるような一体感を醸し出しています。やはり感性ある画家が見立てると額縁もこうなるという良い例と言ってもいいかもしれません。